小学校一年生の最初の算数の授業。先生は黒板にチョークで丸を書き、配った答案用紙に同じものを書いてごらん、と言った。皆すぐに答えを書いて、ハイ、ハイと手を挙げたが、一人だけ手を挙げない子がいた▼先生はその子のそばに行くと、感心してじっと見ていて、答案がようやく出来上がると皆に見せた。それは黒く塗りつぶされ、その中に白い丸が注意深く塗りのこされていた▼思想家・鶴見俊輔さんは著書『思い出袋』で、こういう教育、何が問題かを自分で考え、自分なりの答えを探す力、自問自答する力を養う学びが日本の教育制度では失われていると書いた▼そんな教育のありようを改めて考えさせられたのが、経済協力開発機構(OECD)が各国の十五歳に生活の満足度を尋ねた調査結果だ。日本の十五歳の満足度は四十七カ国・地域中、四十一位▼日本や台湾といった学力調査で好成績を残す東アジアで満足度が低く、中南米など学力調査ではふるわぬ国で満足度が高いというから、皮肉なものである▼日本では学力評価が低い生徒ほど満足度も低い傾向にあるという。それは、なぜか。誰かがつくった問題への○か×かを効率よく答えることばかりが評価され、子どもたちが学力という一つのものさしだけで自分に○×をつけるようになっているのではないか。そういう自問自答を誘う「四十一位」だ。