これこそ、命名の妙というものだろう▼天王星の発見という偉業を成し遂げたウィリアム・ハーシェルは十八世紀末、土星の衛星を立て続けに見つけた。そのうちの一つを「エンケラドス」と名付けたのは、彼の息子ジョン・ハーシェルだ▼エンケラドスとは、ギリシャ神話の巨人。オリンポスの神はその怪力を封じるために、シチリア島の下敷きにしてしまった。だからこの巨人がのたうち回るたびに、島は揺れて、火山が噴火する。そんな大地を脈動させる力が、衛星エンケラドスにも働いているというのだ▼直径五百キロほどのこの衛星は、数十キロもの分厚い氷に覆われた星だ。しかし、その内部には、土星と引き合うことによる活発な地質活動があり、熱がある。氷の下には海があって、火山の島シチリアの間欠泉のように、水蒸気などが空高く噴き上げられてもいる(関根康人ほか『系外惑星の事典』)▼米航空宇宙局(NASA)がこの「宇宙の間欠泉」から出る物質を探査機カッシーニで採取し分析したところ、有機物などに加え、豊富な水素分子もあることが分かったという。海に熱に有機物に水素…エンケラドスは、生命を育む星かもしれぬのだ▼巨人エンケラドスと戦ったのは知性と学問の女神アテナだった。二十一世紀の知性は、衛星エンケラドスとどう格闘するか。ハーシェル父子に見せたい天文のドラマだ。