次の率直な文では人を傷つけてしまいます。もっと遠慮がちな文に改めてください。例題その(1)「彼はいやなやつなので、私は付き合いたくない」▼「バカに見られないための日本語トレーニング」(樋口裕一さん・草思社)から引いた。かつての日本人といえば、本音と建前を巧みに使い分ける国民性で知られていたが、最近はそうでもないのか。とりわけSNSの短い文章に慣れた若い人はまどろっこしい婉曲(えんきょく)表現が苦手なようで、この手の指南本が重宝されているらしい▼答えの例としてこんな言い換えがあった。「彼のような人物と付き合ったことがないので、うまくやっていく自信がない」。元からすれば、半分以上ウソになっている気がしなくもないが、確かにこの言い方ならさほど波風は立つまい▼こっちは「本音」に関する話題か。米国のフェイスブックが指や声を使わず頭に思い浮かべただけで文字を入力する新技術を開発中と発表した▼実現すれば、指より五倍速く入力できる。助かる人もいるが、頭に浮かんだだけでというところで例題その(1)を思い出し、ひるみもする▼無論、頭の中で婉曲表現を使った文を作成すれば、よいのだろうが、感情むき出しのおそろしき文をつづることになるまいかと実用化のめどさえない研究に気をもんでしまう。実用化されてもたぶん永田町界隈(かいわい)では怖くて導入できないか。