韓国映画「国際市場で逢(あ)いましょう」(二〇一四年、ユン・ジェギュン監督)は本国では国民的映画だが、日本でも人気が高い▼理由は日本人の過去ともどこかで重なるせいかもしれぬ。朝鮮戦争中の一九五〇年。ある家族が戦火を逃れ、北朝鮮東部の興南(フンナム)から韓国へ米船で脱出を図るが、父と妹の二人の行方が分からなくなる。描かれるのはその後の家族である▼無事逃れたものの母と子どもらの貧しい生活。幼い子が米兵にギブミーとチョコレートをせがむ場面がある。離れ離れになった妹の消息を知ろうとテレビで訴える場面がある。悲劇を乗り越え、生き抜く家族の姿。時代は違えども戦後日本も体験した苦い過去であり、涙である▼船の名はメロディス・ビクトリー号。映画と同じその船で、ある夫婦も韓国・巨済(コジェ)島に逃れた。その二年後に男の子が生まれた。韓国新大統領の文在寅(ムンジェイン)氏(64)である▼やはり、貧しい暮らしだったと聞く。トウモロコシのかゆ一杯で一日を過ごしたことや、月謝が払えず、教室から出された日もあったという。苦労人と一言では、片付けたくないが、風雪を知る手が国の舵(かじ)をどう取るのか期待する▼慰安婦問題をめぐる日韓合意の見直しを主張している。関係悪化の懸念もあるが、両国で必ずや通じ合えるところがあると信じるしかあるまい。同じ涙を流すことができるはずの両国である。