辞書編集の世界には、「めぐり」という言葉があるという。例えば、「有様(ありさま)」という言葉を辞書で引くと「状態」とあり、「状態」を引くと、「有様」。定義づけの堂々めぐりである▼辞典作りに生涯を懸けた国語学者の姿を活写した『辞書になった男』(佐々木健一著)によると、『新明解国語辞典』を編んだ山田忠雄氏は「単純な“言いかえ”では、ことばの意味の本質にはたどり着けない」と、「めぐり」に陥りがちな語釈を、根本的に見直したという▼この語釈はどうだろうか。思想の自由を脅かしかねぬ共謀罪をめぐり、テロリズムの定義を問われ、政府は答えた。<特定の主義主張に基づき、国家等にその受け入れ等を強要し、又は社会に恐怖等を与える目的で行われる人の殺傷行為等>▼では、その「特定の主義主張」とは何かと問われると、<テロリズムに係る集団が行う殺傷行為等のよりどころとなる主義主張>。テロリズムの定義に、テロリズムを使う。お粗末な「めぐり」である▼山田氏は「ことばには、“表”の意味と同時に必ず“裏”に秘められた意味がある」と言い、自ら編んだ辞書ではそれを〔 〕内に書き加えた。例えば「善処」は<うまく処理すること>との語釈に加え〔政治家の用語としては、さし当たってはなんの処置もしないことの表現に用いられる〕▼さて、政府の言うテロリズムとは?