旧約聖書の創世記をめぐる、こんなジョークがある。三人の男が言い争っている。医者と建築家と政治家が、自分たちの職業のうち最古の職業はどれかを論じているのだ▼「神はアダムの肋骨(ろっこつ)からイブを作られた。これは手術ではないか」と医者が主張すると、建築家が反論する。「神はまず、混沌(こんとん)からこの世界を構築された。建築こそ一番古い」。「なるほど」と政治家が口を開いた。「ところで、その混沌をつくったのは誰だね?」▼「誰だね?」と聞かれて、いま真っ先にその顔が浮かぶ政治家が、またしても特大の混沌をつくった。地球温暖化対策の世界的な枠組み「パリ協定」から離脱すると宣言したのだ▼「地球温暖化は金のかかるでっち上げ」とまで言っていた人物が米国の大統領になったのだから、生まれるべくして生まれた混沌だろうが、思い起こしたいのは、地球温暖化問題などで米欧が対立した主要国首脳会議の後に、メルケル独首相が語った言葉だ▼「私たちが他の人(国)に頼り切る時代は過ぎ去りつつある。自分たちの将来のために自分自身で闘わなくてはならないことを、私たちは知るべきだ」▼実際に当の米国でも、大企業の首脳や地方政治家らが「政府に頼らずに自分たちで温暖化対策を進めていこう」と声を上げ始めている。トランプ氏がつくった混沌から、新たな動きが生まれつつあるのか。