「負けることには、耐えられない。二位に興味はない」。米野球の「球聖」タイ・カッブの言葉という▼勝利にこだわる運動競技や勝負の世界では、二位は「惜しかった人」ではなく、どちらかといえば哀れな「敗北者」と考える傾向があるようだ。そう自分に言い聞かせ一位を目指す糧としているのかもしれぬ。「二位じゃだめなんですか」が通用せぬ厳しい世界である▼二位について最も痛烈な言葉は米ゴルフのウォルター・ヘーゲン(一八九二~一九六九年)。全米オープン二回、全米プロ五回、全英オープン四回の優勝記録を誇る名選手いわく、「だれが二位だったかなんて覚えている人はいない」-▼「お言葉ですが」と反論したくなるゴルフ全米オープンでの松山英樹選手の二位である。日本勢初のメジャー大会優勝の悲願をテレビの前で祈ったファンもいるか▼六打あった首位との差を一時、一打まで縮める猛追。初日の出遅れにも腐らぬプレーに、この大会の二位の名は「覚えている人はいない」とはならぬはずと信じる▼不思議と悔しくない二位である。正確なアプローチ、パターの冴(さ)え、一打一打にいつメジャー優勝してもおかしくないという予感が深まる。惜しい二位ではなく、「いつか」は一位の二位。そう思わせる成長と安定である。さて、七月の全英オープン。その「いつか」の有力候補と書いておく。