<記録に並ぶは七月一日。そこからさらに十二試合、驚き桃の木の大選手>。「ジョルティン・ジョー・ディマジオ」(レス・ブラウン楽団)は一九四一年、全米で大ヒットした。陽気で軽快な曲を訳してみれば、こんな雰囲気だろう▼歌の主人公はニューヨーク・ヤンキースのジョー・ディマジオ。この年五月から七月にかけて大記録を達成した。今なお破られぬ五十六試合連続安打である。映画の宣伝みたいに書けば、新記録に全米が熱狂した▼比べたくなる中学生棋士の大記録である。藤井聡太四段が公式戦二十九連勝を達成した。快挙に日本中が興奮しているとは言い過ぎか。連勝など連続のかかる記録には不思議な魅力があるようで、われわれ自身も同じ時代に居合わせた者として少年の飛行機に一緒に乗り、高い場所に向かっている。そんな興奮がある。さあ、どこまで連れていってくれるのか▼されどである。験の悪いことを書くが、勝負である以上、連勝はいつかは止まる。才能の真価が問われるのは、おそらくその後である▼ディマジオを引いたのは記録が途切れた後の話を書きたかったからである。五十七試合目に無安打に終わったディマジオ。失望も気落ちもせず、次の試合からまた十六試合連続で打った▼新記録は新記録。だが、大棋士への道はその先にある。そんなこと、聡明(そうめい)なる四段は百も承知だろうが。