晩年の古今亭志ん生さんはお医者にお酒を止められていたものの、欲しくてたまらない。困った家族は相談し、飲ませることにしたそうだ▼当然ながら、そのまま飲ませては体に障る。日本酒をこっそり水で薄めて出していた。事情を知ってか知らずか、口にした志ん生さん、「最近の酒はずいぶんと水っぽくなった」。一度、そのまま出してしまったこともあるそうで、その時は「やっぱり酒はうまい」とうれしそうだったという▼水で薄められたは英語で「ウオータード ダウン」(WATERED DOWN)。昭和の名人のおかしくもちょっと悲しいエピソードを連想したのは、米メディアの報道から。「国連安保理、水で薄めた対北制裁を決議」(米NBCテレビ)▼核実験に踏み切った北朝鮮に対し、米国などは原油の全面禁輸を含めた厳しい制裁決議を採択したかったが、中国、ロシアの反発を受けて制裁内容を水で薄めるしかなかったのだろう▼水っぽいかもしれぬが、重要なのは全会一致で制裁決議を採択できたことだろう。核実験からわずか一週間。短期間に制裁の足並みをそろえた意味は大きい▼制裁の「効き目」という意味ではそこは水っぽい酒であり、大きな期待は抱くまい。北朝鮮がさらなる挑発行為に出る危険はあるが、その時は水で割った制裁ではなく喉が焼けるほどの「生(き)」の制裁が待っている。