その窓からはいったいどんな景色が見えたのだろう。米国ネバダ州ラスベガスのホテル「マンダレイベイ・リゾート・アンド・カジノ」の三十二階。容疑者は、三百メートル先の野外コンサート会場に向かって、この部屋から銃を乱射した▼特定の「誰か」を狙ったわけではないだろう。「誰でもかまわぬ」あるいは「みんなまとめて」の冷酷な「スプレーショット(発射)」。さむけがする▼朝起きて働き、あるいは学び、家族や友と語り合う。容疑者の目にはそういう人間一人一人の営みも生命の尊さも見えていない。想像さえしていないだろう。見えていたのはコンサート会場の「誰でもかまわぬ」、約二万人の塊であろう▼栄華、欲望。米国の一つの断面を象徴するギャンブルの町での事件はどこか暗示的である。今、三十二階の部屋の窓から事件現場を見下ろしてみればいい。見えるのは、血なまぐさき荒涼であろう。その光景は「銃を規制しない」という愚かな「大博打(ばくち)」を続けた結果である。それに大勢の人びとが巻き込まれた▼米国史上最悪の犠牲者数という。そのギャンブルを続ける限り、最悪の記録はすぐに更新されるだろう。かの国は絶対に勝てぬ博打であることになぜ気づかぬ。しかも、チップとして使われているのは罪なき人びとの生命である▼<ラスベガス万歳>。あの町を歌うエルビスの声が今は悲しい。