江戸端唄の「浅草まいり」は浅草寺周辺の地名などを織り込んだ当時の「ご当地ソング」だろう。<そこが雷門で とんだりはねたりかわったり おもちゃ 仲見世五十軒>▼唄の中の「とんだりはねたり」。かつての大道芸人の曲芸の様子かと思えば、実はそのまま「とんだりはねたり」という商品名なのだそうだ。小さな人形が竹のバネでぴょんぴょんはねる玩具。浅草で十八世紀後半の安永年間に売られ大ヒットしたという▼東京を代表する観光名所で、外国人客のお目当てにもなっている、その浅草の仲見世商店街の家賃をめぐる「とんだりはねたり」どころではない大騒動である。商店街建物を所有する浅草寺が来年一月から家賃を大幅に値上げしたいと提示した▼現在の家賃が十平方メートルあたり月一万五千円。その安さにへえと思う一方、それを約十六倍の月二十五万円にという値上げ幅にも驚く。周辺相場や建物の維持管理費を考えての値と聞くが、店側とすれば廃業に追い込まれかねない事態だろう▼仲見世には今も「とんだりはねたり」を扱う江戸玩具の店もある。双方に言い分はあろうが、この件で仲見世独特の風情やにおいが変わってしまうことを誰も望んでおるまい▼「あ」の口と「うん」の口。浅草寺の二人一組の仁王さまを見習い、調和ある知恵を。浅草寺と仲見世。それはやはり二つで一つであろうて。