<夢で会うふるさとの人みな若く>。俳号・風天の俳優、渥美清さん。バス停でごろ寝する旅路の寅さんがそのまま詠みそうな句である▼<みな若く>なのは、家族や友が若く元気だったころへの郷愁か。夢から目が覚めた時、懐かしき「再会」にほほ笑みながらちょっと涙ぐんでいる寅さんの顔が浮かんでくる▼自分と一つ違いのその人が、少女だったころの写真を見る。この人はどんな<ふるさとの人>の夢を見ているのだろうか。そう想像すれば、胸が痛い。横田めぐみさんである。一九七七(昭和五十二)年十一月十五日、北朝鮮に拉致されてから、四十年となった。夢でしか会えない、ふるさとの人の顔が時間の経過とともに薄くなっていないことを祈るしかない▼めぐみさんの帰りを待つ、ご両親はどんなめぐみさんの夢を見ているか。残念ながら、夢の中のめぐみさんは少女のままで年を取っていないかもしれぬ。それは幸せの若さではなく、残酷な若さである▼連れ去られた十三歳のまま。ジュリーやピンクレディーの曲が街角に流れていた、あの年からずっと時間が止まっている。何もなければ語らい、ほほ笑み合うはずだった親子の四十年が奪われ、なおも奪われ続けようとしている▼「めぐみちゃんとわかる間に一時間でもいいから会いたい」。母親の早紀江さんの記者会見の言葉。会わせたい。一刻も早く。