水からガソリンをつくる。そう聞けば、だれもがばかなとおっしゃるだろうが、この詐欺に引っかかりそうになったのが、旧帝国海軍である。山本一生さんの『水を石油に変える人』(文芸春秋)に詳しい▼詐欺の触れ込みによれば「水に七種類の薬品を一定の間隔で投入、五十度まで加熱するとガソリンに変化する」。一九三九(昭和十四)年一月、海軍省での実験では水だったはずの液体がライターの火で燃え上がったという▼もちろん、すり替えによる「神業」。見破られて御用になったが、海軍をおこわにかけようとはおそれいる。海軍もそれほどガソリンの入手に悩んでいたか▼「コーヒーでバスを走らせる」。この話も…とつい身構えたくなるが、本当らしい。コーヒーを抽出した後に残る豆のかすを使った燃料の開発に、英国の会社が成功したそうだ▼捨てれば、メタンガスや二酸化炭素(CO2)を発生させる豆のかすを再利用。ロンドン交通当局はこの燃料を採用し名物の赤い二階建てバスを走らせるそうでこの燃料なら、排出されるCO2の量は従来に比較して10~15%削減できるというからコーヒーのせいではなく、目が覚める▼<一杯のコーヒーから夢の花咲くこともある>。「一杯のコーヒーから」。省エネ、排ガス抑制の知恵と成果が頼もしく、つい口ずさむ。海軍がだまされかけた三九年の流行歌である。