<間もなく新宿行き快速電車がまいります。そのまましらばくれてお待ち下さい><車内では席をゆすり合いましょう>。井上ひさしさんの作品には言葉の病(無論、想像上の)にかかる人がよく描かれる▼「しばらく」を「しらばくれて」と口走るのは「似た音への置換」症状が出る駅員さん(『言語生涯』)▼「しいぞ、おかしい!配列がことばの狂っている!はぐちぐだ」。これは、「言語不当配列症」。「あれどう。したんだろうぼくの喋(しゃべ)り方すこし。ヘンだぞ」。こっちは、句読点の位置がおかしくなる「ベンケイ病」。いずれも戯曲『国語事件殺人辞典』にある▼日本語をめぐる、この「症状」は笑えない。主語と述語の関係など文章の基本構造が理解できていない中高生がかなりの割合でいるという、国立情報学研究所の調査結果である▼「幕府はポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた」と「ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた」。これを同じ意味と解釈した中学生は全体の約43%、高校生でも約28%とは深刻である。これでは教科書を理解するどころか日常生活にも困るだろう▼特効薬は読書しかあるまい。まず読み、理解できなければ誰かに尋ねる。理解できなかった理由を考える。この習慣で、かなり改善できるはずだ。「別にいいや」としらばくれては治らぬ。