米作家ウィリアム・アイリッシュの推理小説『幻の女』の中にたばこを使ったトリックがある。三本のたばこを一本につなぎ合わせて火を付ける。詳細は伏せるが、これで時間をごまかすアリバイ工作である▼たばこをたしなむ方なら、なんとまあもったいないこととお嘆きになるかもしれぬ。また、たばこ値上げの気配である▼政府・与党は二〇一八年十月から四年かけて一本当たり三円引き上げる案を軸に検討しているという。二十本入りの一箱当たりでは、六十円の値上げ。現在、一箱四百四十円のたばこならば、ついに五百円の大台に乗ることになる▼一九六六年に八割を超えていた喫煙率は現在、二割を切る。健康への悪影響、世間の目。加えて、その値段になれば、もはやこれまでと、たばことの別れを決意する人も増えるか▼「たばこをやめるのは簡単だ。私は百回以上やった」。マーク・トウェインの有名な言葉。本気でやめるのなら、こっちの単純な掛け算の方が有効だろう。五百円×(例えば)二箱×三百六十五日。その数字にゲホゲホせき込むだろう▼名探偵シャーロック・ホームズには「各種煙草(たばこ)の灰の鑑別について」という著作があることになっている。最新版にはすべての灰の「持ち主」の性格についてこう記されるか。<健康にやや無頓着で世間の批判にも打たれ強い人物。大富豪の可能性あり->