<この都市(まち)は名前でかくれんぼ。/イェルシャライム アル=クドゥス サレム ジェル イェル…>とうたったのは、イスラエルの国民的詩人イェフダ・アミハイ氏だ▼かくれんぼができるほど多くの名を持つ都市とは、エルサレムのこと。この街は時代により支配者により、さまざまな名をつけられてきた。同じ街を、ユダヤの人はイェルシャライムと呼び、アラブの人はアル=クドゥスと呼ぶ▼名前の多様さは、街がいかに重層的に築かれてきたかを物語る。ユダヤ王国の神殿が築かれ、イスラムの預言者が昇天し、キリストが磔(はりつけ)になったとされる都市は、それゆえ、繰り返し戦場となった▼そういう歴史を繰り返さぬための国際社会の約束を破り、トランプ大統領は、イスラエルとパレスチナ双方が首都だと主張するエルサレムを、「イスラエルの首都だ」と宣言した。よほど憎悪の壁を築くのが好きらしい▼アミハイ氏は、こんな詩も残している。<わたしたちが正しい場所からは/花はぜったい咲かない/…わたしたちが正しい場所は/踏みかためられて かたい/…でも 疑問と愛は/世界を掘りおこす/もぐらのように 鋤(すき)のように…>(『エルサレムの詩(うた)』村田靖子訳)▼独り善がりの正義で、隣人が憎み合い、壁が築かれてきたエルサレム。その街で十七年前に生涯を閉じた詩人の、やさしく強い言葉である。