わが国のモグラ界には、二大勢力がある。東のアズマモグラと、西のコウベモグラ。もともとはアズマモグラが東から西まで縄張りにしていたが、一回り大きなコウベモグラに西から押され、今は国土を二分しているという▼富山大学の横畑泰志教授によると、そんなモグラ界の勢力図の境は、日本アルプスなどの山塊が連なる中部地方だ▼平地の生存競争では劣勢なアズマモグラが、小さな体格が有利に働く山岳戦で踏ん張り、何とかコウベモグラの東進を防いでいる。日本アルプスの山々や谷は、トンネル掘りの小さな名人たちの縄張り争いの前線なのだ▼そういう山岳地帯をも貫くトンネルを掘り、東西を時速五百キロで結ぶリニア。総事業費九兆円の巨大事業ともなれば、人間界のトンネル掘り名人たちも、受注をめぐって激しく縄張り争いをしそうなものだが、そうはならぬらしい▼東京地検や公正取引委員会によって、大手ゼネコンがリニア工事をめぐり談合をしていた実態が浮かびつつある。余計な縄張り争いを避けて共存を図ると言えば聞こえはいいが、談合で工費が高くなるツケは結局、私たちに回ってくる▼ゼネコンは十二年前に「談合決別宣言」をしたが、その後も繰り返し談合の存在が指摘されてきた。叩(たた)かれても叩かれても、巧みに抜け穴を掘ってまた顔を出す。この国で最もしぶといモグラかもしれぬ。