長嶋茂雄選手のまねはそれほど難しくない。ややバットを短く持って、低く低く縮こまるように構える。そこからフルスイングして、帽子を飛ばす。王貞治選手のまねで大切なのは一本足よりも打った後の大きなフォロースルー。そしてゆっくり歩きだす。なぜなら本塁打だからだ▼野球が子どもの中に今よりもずっと大きな存在だった時代。野球少年たちはあこがれの選手に少しでも近づきたくて打撃や投球フォームを研究し、まねたものである。夏の校庭に冬の空き地にたくさんの強打者と名投手がいた▼中日のかつてのエース星野仙一さんが亡くなった。七十歳。この沢村賞投手の気迫あふれる投球フォームも中部地方に生まれ育った少年たちにとって、あこがれと尊敬の的だった。一九七四(昭和四十九)年、当時無敵と思えた巨人の連覇を阻止し、中日リーグ優勝の立役者となった。あの年十五勝。ヒーローだった▼久しぶりにやってみる。打者をにらむ。サインは内角直球。振りかぶる。頭の後ろに両手をゆっくりと収める。自信満々に胸を張る▼突然、動作が速くなる。腕を引く。踏み込む直前の左足はできるだけまっすぐに。リリースポイントは高く。打てるものなら打ってみろ。投げ終えるやいなや鬼の形相でボールと判定した主審に叫ぶ。「入っとるやないか!」▼一球で背中が痛む。そして寂しさが広がる。