古典落語「水屋の富」は水屋商売の男が富くじを当て、金の隠し場所に困る話で水屋の心配ぶりがおかしくも悲しい▼長屋で独り暮らし。さてどこに隠すか。押し入れはどうだろう。すぐ見つかるか。では押し入れの中の古い葛籠(つづら)に入れては。これも葛籠を開けられたらおわりか。葛籠の中にぼろを入れておき、その下に隠せば。でも、ぼろの下を探されたら…。心配が尽きぬ。ついには床下に隠すが、それでも不安で夜も寝られない▼仮想通貨と聞けば、最先端技術で不正アクセスから厳重に守られているのだろうと想像していたが、あの心配性の水屋なら、腹を立てる管理の甘さか。仮想通貨取引所の運営大手コインチェックの仮想通貨「NEM」の約五百八十億円分が不正アクセスによって消えてしまった▼口座をインターネットに接続したまま管理していたというが、それでは安全性は保てまい▼うかつな管理の理由を技術的困難さや人材不足というが、人さまの虎の子を預かるにしては「金庫」の用意が不十分で後先が違う話だろう。消えた資産は「最悪の場合は返せない」というから深刻である▼一億円を現金にすれば約十キロだから、五百八十億円分は約五・八トン。運ぶにはかなり人手とトラックが必要だが、仮想通貨は一度侵入を許せば、あっという間か。現金以上に「隠し場所」の難しい、しろものかもしれない。