その都市では「犯罪予防局」なる組織のおかげで大きな犯罪は一件も起きないのだそうだ。どうやって犯罪を防ぐのか。三人の予知能力者の力を借り、犯罪が起きることを事前に把握し、犯行前に「犯罪者候補」を逮捕してしまうのである▼現実社会ではなく、米SF作家フィリップ・K・ディックの短編小説で映画にもなった「マイノリティ・リポート」。犯罪はなくなるかもしれないが、実際にはまだやってもいない犯罪をとがめられるとは不気味な世界である▼あの小説をちょっと思い出した人もいるか。神奈川県警が人工知能を使った捜査、犯罪防止のためのシステム導入を検討しているそうだ。過去のデータを基にAIが事件の起きやすい場所、時間などを予測。これに沿ってパトロールを強化し治安向上につなげるという▼AIによるこの手の予測警備はもはやSFではなく、欧米などでは既に試験的に導入されていると聞く▼犯罪が減るというのならけっこうだが、注意すべきは行き過ぎによる人権侵害である。AIを過信し、「犯罪者候補」と決めつけられるようなことはあるまいな▼深夜、犯罪発生率の高い地区で男が長時間うろうろしている。その光景からAIがあやしいと判断。男を包囲してみれば、毎日の原稿に悩み、ただ町をぶらついていた新聞のコラム書きだったなんていう未来は御免こうむりたい。