<がきの折から手癖が悪く、抜け参りからぐれ出して、旅を稼ぎに西国を、まわって首尾も吉野山…>。ごぞんじ、歌舞伎「白浪五人男」。大盗賊日本駄右衛門の一味の忠信利平が悪に手を染めたきっかけを語る▼抜け参りとは、親や奉公先の主人の許しのないまま無断でお伊勢参りに出かけること。ささいなことから道に迷うのはいつの世も同じだろう。家出程度の抜け参りからぐれだした結果が<盗んだる、金が御嶽の罪科(つみとが)は蹴抜(けぬき)の塔の二重三重…>。罪に罪を重ねていった▼<小型核兵器から使いだし…>。忠信利平のせりふをやけ気味につぶやく。米国の政策転換のせいである。トランプ政権は核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」を公表し、新型の小型核兵器を開発する方針を打ちだした。局地戦での小型核使用も視野に入っているのか。それが人類にとって大きな罪科を重ねる糸口になりはしないかとおそれる▼都市を壊滅させるのに十分な威力の戦略核に比べれば小型核兵器の破壊力は弱められている。が、それは紛(まご)う方なき核兵器である▼最も恐怖すべきは小型核兵器があたりまえに使われるようになった時、核兵器使用への人間のおそれやためらいまでもが「小型化」しかねないことである。その道は戦略核の使用にまでつながるだろう▼<小型核兵器から使いだし…>。そこから先は口にしたくもない。