峠で雨に降られ、困っていると、傘をさした人が突然やってくる。手招きをし、どうぞお入りなさいという。ありがたい、それではと傘に入ったが運の尽き。とたんにとんでもない場所へと連れ去られてしまうという▼「傘さしタヌキ」という妖怪変化の類いで徳島県に伝わる。優しいふりをして人をたぶらかすとは、不届きな化けダヌキである▼北朝鮮から韓国に突然、差し出された「融和」の傘は本物なのか。北朝鮮が韓国の文在寅大統領の早期訪朝を要請した。大統領も「条件を整えて実現させよう」と前向きに応じたそうだが、隣国としてはやはり心配したくなる▼情において南北首脳会談は理解できる。それが朝鮮半島の対立を根本から変えるような契機となるなら歓迎もしよう。されど「融和」「ほほ笑み」と派手に大書きされた、北朝鮮の傘の裏側が気になってしかたがない▼核実験、ミサイル発射を続ける北朝鮮に対し国際社会は制裁と圧力をかけ続けてきた。ひとえに核をあきらめさせ、挑発行為をやめさせるためである。その傘が韓国を幻惑し、国際社会の包囲網を弱めたいというタヌキの外交戦術の疑いがあるのなら現時点での「相合い傘」はやはり歓迎しにくい▼化かされぬためにその両手をよく見たい。「融和」の傘を差し出す一方、別の手には核実験のボタンとミサイルを握りしめたままではないか。