「何もないから、何も出るはずがない」。強硬な外交姿勢で知られる某国の首相は最近、そんな言葉を繰り返しているという。足元で疑惑に火が付き、鎮火に躍起になっているのだ▼某国の首相とは、イスラエルのネタニヤフ首相のこと。十二年の長きにわたって政権を率いてきたが、今や疑惑の渦中にある▼汚職の疑惑を捜査してきた警察が「証拠は十分。起訴すべきだ」と結論を出したのだが、それでも警察や報道機関の言動は「フェイク(偽の)ニュース」だと切り捨て、「何もないのだから、何も出るはずがない」と繰り返しているそうだから、疑惑封じの呪文のようだ▼さすが、海千山千の政治家の神経の太さは見事なものだが、わが国の為政者も、なかなかのものだ。森友学園の不可解な国有地の売却をめぐって、面会や交渉の記録は既に廃棄されて「何もないから、何も出るはずがない」と繰り返し続けてきたのだが、今になって二十件もの文書が公表された▼そこには交渉の経緯も書かれているにもかかわらず、財務相曰(いわ)く「(内部の)法律相談の記録であって面会の記録ではない」。だから、記録は「ない」と国会で言い続けた財務省幹部の答弁は問題なし、との理屈らしい▼現に「出てきたもの」を前にしても「ない」と言い募る。そんな屁(へ)理屈が放つ異臭にも気づかぬほど、政権内の空気は汚れているのか