山の麓に住んでいたカエルが春になって山の上の別荘に引っ越した。当初は快適だったが、だんだん暑くなってくると、カエルの別荘はカラカラに干上がってしまった-。ロシアの『クルイロフ寓話(ぐうわ)集』の「カエルとユピチェル」である▼カエルは天候をつかさどる神ユピチェルに祈ることにした。「哀れなカエルを滅ぼさないでください。山の上に水が届くよう下界を水浸しにしてください」。「馬鹿者!」。ユピチェルは叱った。「おまえの願いのために人間たちを溺れさせるのか。それよりもおまえが前に住んでいた沼に帰るべきではないのか」▼どうやら、ユピチェルとは異なる考えの米国第一主義の「神」がいらっしゃる。トランプ米大統領。米国が輸入する鉄鋼とアルミニウムに高い関税を課し、異例の輸入制限を図る方針を明言した▼米国の鉄鋼業界を助けたい。そのためには世界経済を引っ張ってきた自由貿易体制を「大洪水」の危険にさらしてもかまわぬとでもいうのか。短慮にすぎる▼米国の輸入制限に対しては中国、欧州連合(EU)、カナダなどが対抗措置に動くだろう。報復が報復を呼び、かつてない貿易戦争に発展する危険も無視できぬ。そこに、米国の利などあるはずもない▼「貿易戦争、GOOD(上等)じゃないか」。批判に対するトランプ大統領の反論である。叱るユピチェルはいないのか。