ボクシング漫画の名作『あしたのジョー』(高森朝雄、ちばてつや)はボクサーに宿命付けられた減量という試練が物語全体の柱になっている▼ライバル力石徹は体格差のあるジョーと闘うため命の危険を冒してまで過酷な減量に挑み、不幸な結果を招く。ジョー自身もその後、減量に苦しむ。周りは減量をやめさせ、階級を上げようと提案するが、ジョーはかたくなに応じない。「バンタムというところは あの力石徹が命を捨ててまで」「おれとの男の勝負のためにフェザーから下(お)りてきた場所なんだ」。泣けてくる世代もいるだろう▼漫画とは分かっているが、減量をおろそかにし体重オーバーでタイトルマッチに出場したWBCバンタム級前王者に読んで聞かせたくもなるではないか。先週、山中慎介選手に勝ったルイス・ネリ選手(メキシコ)である▼最初の計量は二・三キロオーバー。恥ずべき大幅超過である。王座は剥奪されるものの、戦績に黒星を残さぬため意図的にやったのではないかとの世間の見方は消えまい。わずかな体重差でさえ有利不利に働く勝負である▼この気分の悪い対戦で歴史に残る名ボクサーはリングを去るのか。あの試合、倒されても倒されても向かっていくサウスポーの闘志が忘れられない▼WBCは二日、ネリ選手の無期限資格停止を決めた。それでもまだ納得できぬ。漫画なら数年後…。