その小柄な少年が格闘技を習うようになったのは、自分の身を守るためだったそうだ。最初はボクシング。次にサンボ、そして柔道。もめごとがあれば、けんかになる。理屈ではなく、けんかに勝った者が正しい。そういう世界で暮らすためには、格闘技の腕を磨くしかなかった▼少年はやがて大統領になる。ロシアのプーチン大統領である。かつてのインタビューの中で少年時代から得た三つの教訓を披露している。一、力の強い者だけが勝ち残る。二、何が何でも、勝とうという気持ちが大切。三、最後までとことん闘わねばならない▼その圧勝は三つの教訓によるものか。ロシア大統領選挙でプーチン大統領が当選した。任期は二〇二四年までというから二〇〇〇年の大統領初当選以来、首相時代も含め、事実上四半世紀にわたって権力を握り続けることになる▼当初から圧勝が予測されていたが、76%という高い得票率に驚かされる。半面、不正投票の疑いもささやかれている▼ある投票所では同じ人物が一人で何票も投じる映像が公になっている。高い投票率と得票率を狙って怪しげな手を使ったとすれば、その大統領は最強かもしれぬが、最高の大統領とは呼びにくい▼大統領の自宅には講道館柔道創始者、嘉納治五郎の像があると聞く。品格と礼を重んじた治五郎の像が、その日の大統領にはどう見えたかが気になる。