ジョン・デリンジャーといえば、一九三〇年代の米国の有名な銀行強盗だが、このお尋ね者のせいでひどい目に遭った人がいる▼理由は顔。デリンジャーとうり二つだった上にどういうわけか顔のほくろが同じところにあったそうで、何もしていないのに逮捕されること十七回。十一回も銃で撃たれたというからお気の毒という他ない▼そういう間違いも起こり得るのである。シリアのアサド政権が化学兵器を使用した疑いは確かに濃い。しかし確実な証拠を示さぬままシリア空爆に踏み切った米英仏のやり方にも、いささかの荒っぽさを感じる。昨日、ダマスカスなどの軍関連施設を巡航ミサイルで攻撃した▼化学兵器の使用は許されぬ。東グータ地区ドゥーマでの七日の攻撃によって、子どもが苦しんでいる姿を見れば、だれもが憤りを覚えよう。トランプ米大統領がアサド大統領を「怪物」呼ばわりするのも理解はできる。が、化学兵器が使用されたという証拠がなければ、この攻撃をもろ手を挙げて歓迎するのはやはり難しいだろう▼正義を行いたいのであれば、一分の隙もない慎重さと冷静さが必要だったはずである▼米国もシリアの背後にいるロシアもお互い、戦争など望んでいないだろうが、こうなると偶発的な軍事衝突の危険も無視できない。不幸なことに米ロともその指導者は強気という点ではうり二つなのである。