社会に出るころには世の中は不況で、「就職氷河期」まで始まってしまう。格差や貧困といった問題にも直面した。「失われた世代」を意味する「ロスジェネ」と言われる人たちだ。生きづらい青年期を生き、今は三十代後半から四十代。逆襲に転じた人もできない人もいるだろう。一九八〇年生まれだから、プロ野球中日の松坂大輔投手も、世代としてはここに属する▼十九日の阪神戦で、久しぶりの勝利は逃した。しかし、123球を投げ抜いて、7回を2失点。右肩のけがなどを乗り越えて、復活を目指す三十七歳の投球に、予想以上の力と気迫を感じた人は多いのではないか▼「松坂世代」という言葉がある。松坂投手を筆頭とする同学年に現れた逸材たちを言う。だが、その多くが引退し、意味合いは変わってきた。今ではけがや体力的な衰えと闘いながら、踏ん張る同世代のベテランたちのことだろう▼松坂投手も怪物といわれた時代の剛速球はない。現実を受け入れつつ、持っているスピードときれと配球で勝負を挑む▼ネット上には、ひいきの球団を超えた同世代の言葉が、並んでいた。「私たちの誇り」「感動が止まらない」「若いやつに譲れるか」。生きづらい時代を乗り越えてきた人たちの歩みを思った▼勝利はかつてほど簡単でないのは確かだ。その分、同世代ならずとも、感情移入できる復活劇ではないか。