信じられぬ犬がいた。一七四五年五月十一日、ベルギーのフォントノアでフランス軍と、英国、オーストリアなどの連合軍がぶつかる。英国軍に一頭の大型犬がいた。名はムスタファ。飼い主は砲手で、ムスタファは戦闘中も主人のそばにいたそうだ▼砲手に悲劇が襲う。大砲を撃とうとしたその瞬間、敵の砲弾を浴びて絶命。これを見たムスタファは砲手に代わって導火線をくわえ、大砲に火を付けた。連合軍は敗れたが、犬の一撃は敵に大きな被害を与えたと伝わる▼犬の忠義は信じるとしても首相に忠実な元秘書官の答弁はどうものみ込みにくい。加計学園の獣医学部新設問題をめぐる元秘書官の参考人招致である▼学園理事長は首相と友人関係にある人。特区での獣医学部新設認可は首相の特別な計らいによるものではないか、と疑われているわけだが、元秘書官は学園側と面会した事実は認める一方で、面会は首相の指示ではないし、報告もしていないの一点張りである。つまり首相は関係ないのだと▼この答弁を崩せないというのが昨日の審議の印象だが、ムスタファではあるまいし、首相の指示も命令もないまま学園側と三度も会ったりするものなのかとの疑問は晴れぬ▼犬は英雄となり、国王ジョージ二世から生活扶助料を与えられたのだが、元秘書官に与えられるべきは偽証すれば罪に問われる証人喚問での質問か。