紀元前四四〇年ごろ、ギリシャの彫刻家フェイディアスがパルテノン神殿の彫像を完成させた。彫像を見てアテネの会計官は支払いを拒んだ。「彫像の背中は見えない。見えない部分まで彫って請求するとは、何ごとか」。彫刻家は反論した。「そんなことはない。神々が見ている」▼ピーター・ドラッカーさんの本にあった。人の目に触れぬ部分にまで魂を込めることで立派な仕事ができ上がるのであろう▼この方たちは「見えない部分」だからいいやとでも考えたか。賃貸アパート大手のレオパレス21は建設したアパートで施工不良が見つかったと発表した。約三万八千棟を調査するというから大ごとである▼屋根裏にある防火や防音のための仕切りに問題があるそうだ。こんな小咄(こばなし)を思い出す。棚がすぐに落ちるので作った人に文句を言うと、「おまえさん、ひょっとして棚の上になにか載せなかったかい」。防音の弱いアパートで文句を言えば、「ひょっとして声を出さなかったかい」か▼家主、居住者にもとんだ災難で、見えにくい屋根裏だからこそ、「神々が見ている」と心得るべきだろう▼と書いたところでしまらぬ話になる。29日付小欄で栃ノ心のアナグラム(文字の入れ替え)を<ノチノシン>と間違えて書いたが、正しくは<ノチトシン>。おわびさせていただきたい。神々ではなく、読者が気づいてくださった。