日本の製造業の中心地というイメージが強い愛知県にはもう一つ、県外でそれほど知られていない一面がある。花の生産地としての顔だ。五十年以上にわたり、産出額日本一を誇ってきた。温暖な気候に加え、流通の要地にあることが、大きな要因になっている▼そうした土地柄を思わせるような研究だ。昨日、中日文化賞を受賞した名古屋大教授の東山哲也さんは、謎に満ちた植物の受精のメカニズムを次々に解明してきた▼花粉がめしべに付くと、受精のため、めしべ内部に管が伸びる。その様子を独自の手法で観察した。「神秘的であるのと同時に、植物の強さを感じる」経験だったという。管を誘導する物質なども、突き止めてきた▼そうした成果は大きな可能性をひらこうとしている。病気などに強く食糧問題の克服に力を発揮するような新種をつくり出すことだ▼成果はまた、偉大な先人の業績も思い出させる。江戸後期から明治期を生きた名古屋出身の伊藤圭介は、長崎でシーボルトに師事し近代植物学の先駆者と呼ばれる。「おしべ」「めしべ」「花粉」などの用語をつくり、スズランなどの学名には「ケイスケ」の名が付けられている▼地元産の花を研究に使い続けているという東山さんは、「ここで成果を出せたのがうれしい。愛知のおかげです」と話していた。植物研究の系譜に、新たな花を咲かせてほしい。