ある日、財布を拾う。落とし主は新聞社の社長さん。その縁で、新聞社の「坊や」(小間使い)として使ってもらえるようになって、「こいつ、なかなか書ける」と重宝がられる。やがて社長令嬢と恋仲になって結婚。会社を引き継ぎ、全国一の新聞にする…▼これ、なんだと思われるか。作家、井上ひさしさんが高校の時に思い描いた将来の「計画」なのだそうだ。ドラマチックな筋だが、計画とは呼びにくい。現実の社会では、人はそうそう財布を拾わない。ことはトントンとは運ばぬ▼井上さんの「計画」に倣えば、こんな具合か。貿易で損をしている。輸入品に高い税金をかける。他国からの報復で貿易戦争になっても大勝利。貿易赤字は減少。雇用は安定。「こいつ、なかなかやる」と人気になって…。トランプ米大統領の胸の内にある「計画」だろう▼身勝手な米国第一主義の夢想。そのせいで今年の先進七カ国首脳会議(サミット)は大混乱である。米国と各国の対立が強まり、首脳宣言の取りまとめさえ難航しているとはただごとではない▼トランプさん、当初は出席さえ渋ったとか。長年、国際社会をリードしたサミットの看板も泣く▼サミット不要論を聞かぬではないが、この米大統領が在任中は続けたほうがよかろう。年に一回、参加国こぞって文句を言わねば、現実を見ないこの人の夢想はさらに悪化する。