オーストリア首都の「ウィーン」と大分県の湯布院を、寅さんがつい聞き間違え、ウィーンへ行くことになるのは「男はつらいよ 寅次郎心の旅路」。あまり似ていない気もするが、そそっかしい寅さんならさもあらん▼寅さん、同じ映画の中で、もう一つ、地名を混同している。帰国後、ウィーン製と称するバッグを売るのだが。その口上が「オーストラリアはウィーン製のバッグだよ」。案の定、客に「ウィーンはオーストリアの首都じゃろが」と指摘されるが、言い返す。「そういうこともありました。昔は」▼ややこしい地名の話題に寅さんなら「カンベンしてくれよ」と言うか。旧ユーゴスラビアのマケドニアが名を「北マケドニア」に改めるそうだ▼一九九一年の独立以来、その国名を使っていたが、まかりならんと主張したのが隣国ギリシャ。なんでもマケドニアはアレキサンダー大王の昔からギリシャの北を意味する地名であり、それを使うのはギリシャ領土への野心の表れとまで批判。マケドニアのEU加盟にも反対するなど、こじれていた▼遠い国から見れば、そんなことでと思うかもしれぬが、当事国のこだわりも分かる。今回、古代マケドニアと区別し、北と加えることでギリシャも折れた▼漢字なら一文字で済んだ話に二十数年。ともあれ、その対立も「そういうこともありました。昔は」になればいい。