<酒やめてかはりになにかたのしめといふ医者がつらに鼻あぐらかけり>。歌人、若山牧水は酒がやめられなかった。朝二合、昼二合、夜四合。日に一升近くやってしまう。アルコール依存症である▼<酒やめむそれはともあれながき日のゆふぐれごろにならば何とせむ>。やめたい心はあっても、やめられない。苦しかっただろう。苦しいからなお酒か。四十三歳でこの世を去るが、主治医が不思議なことを書いている。死臭がしなかったという。<斯(かか)ル現象ハ内部ヨリノアルコホルノ浸潤ニ因(よ)ルモノカ>。痛々しく悲しい▼ある趣味も一線を越えれば依存症という紛れもない病であると世界保健機関(WHO)がこのほど認定した。テレビやオンラインなどのゲームである▼ゲームのやり過ぎで、日常生活をつつがなく、営めなくなる「ゲーム障害」。世界的に問題になっている▼ゲームをしたい衝動が制御できない。家族、仕事に大きな支障があってもゲームを優先する。本来は楽しむべきゲームに縛り付けられ身動きが取れなくなっている人がいる。本人たちもつらいに違いない。疾病認定によって治療法を早期に確立したい▼無理にゲームを奪っても効果はなかろう。気づいてもらいたいのはゲームより心躍る場面もきっとある日常の味か。牧水が見つけられなかった、<ゆふぐれごろにならば何とせむ>の何を探したい。