米大リーグの長い歴史の中には信じられない退場劇がある。一九八六年六月、サンディエゴ・パドレスのスティーブ・ボロス監督は試合開始前に退場させられた▼きっかけは前日の試合でパドレスの三塁走者が本塁ベースに触れているのに審判は得点を認めず、アウトを宣告。腹の虫の治まらぬボロス監督は次の試合前、その審判に歩み寄り、何やら進呈。問題の場面が収められたビデオだった。審判を侮辱したとプレーボール前の退場となった▼オリックスの福良監督の怒りはそれどころではないだろう。なにせ相手チームのファウルが決勝本塁打と認められてしまった。しかも審判がビデオ映像でその場面を見直すリプレー検証を行いながらである▼試合後、再度の見直しによってファウルだったと審判団も認めているが後の祭り。球史に残る珍事件である。映像でも見間違えたとあってはリプレー検証の意味はない▼判定見直しを求めるリクエスト制度のない時代なら、どんな抗議にも極端にいえば「俺がルールブックだ」で押し通せたかもしれぬが、映像という動かぬ証拠がある以上、こういう事態になるとかえってややこしい▼やはり、その場面の直前からの再試合というのが適当か。このままでは審判がファウルと判定した本塁打が記録上に残る。そして、日本野球機構には大量のビデオ映像と眼鏡が届くことになる。