アメリカン・ニューシネマを代表する映画「イージー・ライダー」の日本公開は一九七〇年だから、思い入れのある世代といえば、七十歳前後になっているか▼日本でも大ヒットし、あの頃の若者の下宿部屋にはハーレー・ダビッドソンにまたがるピーター・フォンダとデニス・ホッパーのポスターがよく貼ってあった気がする▼映画の中で、ピーター・フォンダが腕時計をぱっと投げ捨て、走り去る場面が印象に残っている。時間という名のくびきからも逃れ、自由と、本当のアメリカを探す旅。ニュースにその場面をつい思い浮かべる。そのハーレー・ダビッドソンが一部の生産を米国外に移転させると発表した▼米トランプ政権のEUなどに対する鉄鋼・アルミニウム関税上乗せがそもそもの原因である。報復措置としてEUが米国製品への追加関税を発動。EUで売り上げを伸ばすハーレーとしては追加関税を受けては商売にならぬと考えた上での移転のようだ。国外移転は欧州向けの生産に限るが、米国のシンボルともいえる企業が故郷を離れる▼米国を守るためと打ちだした鉄鋼・アルミニウムの関税強化が結局、米国自身の首を絞めている。貿易戦争の無意味さが分かろう▼トランプ大統領はハーレーを批判しているが、ばかげた政策を足蹴(あしげ)に砂じんを巻き上げ、別の場所を目指すハーレーの姿というのは痛快でもある。