八歳の少年がトロッコ押しを手伝っているうちに遠くまで来てしまった。もう日が暮れる。「蜜柑(みかん)畑へ来る頃には、あたりは暗くなる一方だった。『命さえ助かれば』」-。芥川龍之介の『トロツコ』である▼幼き冒険心、好奇心にひきずられた結果、深みにはまり、途方に暮れる。こういう経験は男の子の方に多いかもしれない▼そのサッカーチームの「奇跡」に対して世界中から歓喜の声が上がっている。ワールドカップには出場していない。タイの洞窟に入ってしまい、閉じ込められ、行方不明になっていた地元サッカーチームの少年とコーチの十三人である。必死の捜索が実を結び、行方不明から十日目の二日、無事発見された▼暗闇、空腹、恐怖。二十五歳の青年が一人いたとはいえ、少年たちの心細さは家に歩いて帰れた『トロツコ』とは比べものにはならないか。過酷な状況に負けることなく、全員が生き延びた。世界が待ち望んだ「ゴール」が見えた▼少年たちの生還に向け、二十四時間態勢の作業が続いていた。これに英国、米国、日本、ミャンマーなど各国が手を貸した。生きて帰るの闘いを続ける十三人に世界も支援と応援の旗を振り続けた。だれもあきらめない。すべてはその結果だろう▼洞窟から救出されるまで、なお時間がかかると聞く。もう少し。十三人の勝利の笑顔を早く見たいものだ。青空の下で。