電車は混み合っている。若い女性が持っていたバッグにぶら下がるトレードマークに目が留まる。MとKの文字を組み合わせて作ってある。どこかで見たことがある▼あれは「メタクソ団」のバッジと確信する。四十年ちょっと前の漫画の登場人物が使っていた。また流行しているのか。しかし、およそ上品とはいえぬ漫画である。うら若き女性がそんなバッジを使うだろうか▼漫画は「週刊少年ジャンプ」連載の「トイレット博士」。通勤電車の中でジャンプの記憶が広がる。とりいかずよし先生に励ましのお便りを書いた。返事はなかった▼外はすごい暑さである。「ど根性ガエル」の中に冷房の効いた銀行で宿題をするという回があった。あの頃、エアコンはどこの家にでもあるものではなかった。野球漫画は「侍ジャイアンツ」と「アストロ球団」。スカイラブ投法は無理でも大回転魔球なら投げられる気がした。「はだしのゲン」には震えた▼電車に揺られ、当時のジャンプが次々とよみがえる。隣のつり革の見も知らぬ男性に話しかけたくなる。「あなたのジャンプは」。創刊五十年に敬意を表す。どれほどの子どもが物語の喜びと笑いを教わったか。その影響力は教科書に匹敵するかもしれぬ▼さてMとK。愚かな勘違いで、マイケル何とかという米国ファッションブランドだそうだ。しかも、あまり似ていなかった。