口では立派なことを語っていながら、正反対のことをやっている。そんな人々には、イソップも厳しい。キツネときこりの寓話(ぐうわ)だ▼狩人に追われ、キツネが逃げてきた。きこりは小屋に隠れるよう勧める。狩人が来ると「見ていない」と言いつつ、手ではキツネの居場所を指していた。手ぶりに気付かず、狩人が去り、きこりから礼を求められたキツネは捨てぜりふを残す。<手の動きが言葉と同じだったなら、私だって感謝もしたでしょうがね>▼「身を切る改革」という立派な言葉はどこにいったのだろう。寓話を思い起こさせるような先日の国会である。改正公職選挙法が成立した。参院の議員定数が六増となる。人口減少のこの時代にである▼自民と与党だった頃の民主の両党首はかつて、身を切る改革で合意している。消費税増税に国民の理解を得るためには、まず身を切る必要があるという考えだった。念頭には衆院の定数削減があったが、参院にその精神は無関係なのか。消費税率引き上げを控えて、身を切られる側の消費者は忘れていないだろう▼良識の府として参院を再生させるという改革ならば、定数増に説得力はあるはずだ。だが、中身はどうも、自民党の政治家のためのものである。感謝をしているのは、身内ばかりだろう▼指さす向きが、言葉とも良識とも違っていないか。改革が終わりでないと願いたい。