夏の朝、磯野家の時計が止まってしまった。サザエが近所のおばあさんに時間を尋ねる。まだ七時半と聞いて一家は安心するが、季節は時計の針を進めているはずのサマータイム。念押しすると、おばあさんは<ちゃんと一時間おくらしてあります>。波平たちが慌てて家を飛び出した▼一九五〇年の漫画「サザエさん」だ。この頃、連合国軍総司令部(GHQ)の指令で時計を一時間進めるサマータイムが実施され、「サンマータイム」と呼ばれていた。サザエとフネ、カツオがそれぞれ「今日からサンマータイムだ」などと同じ時計の針を進めてしまい、就寝が異様に早くなるという回もある▼サンマータイムはあまり評判が良くなくて続かなかった。制度への違和感を持ちながら、磯野家のドタバタを笑った人も多かったのではないか▼復活すれば、当時以来約七十年ぶりとなるようだ。安倍首相が先日、サマータイム導入の可否を検討するよう自民党に指示した。東京五輪・パラリンピックの暑さ対策が目的だという▼欧州などで定着するサマータイムは日本でも省エネ対策などで何度も検討され、そのたびに話は流れた▼仕事時間が増えるなどの懸念がある一方で、かつての世論調査で、反対意見の最上位は「習慣を変えられるのがいや」だった。気質の問題なら猛暑などの事情をもってしてもハードルはなかなか高そうだ。