<月へ向かうときは技術者だったが、帰ってきたら人道主義者になっていた>。アポロ14号に乗った米宇宙飛行士エドガー・ミッチェル氏の言葉だ。『地球/母なる星』(小学館)には、宇宙を旅して、人生観を新たにした二十世紀の宇宙飛行士たちの発言が数多くある。いずれも詩や格言に似て深い▼サハラ砂漠で巻き上げられた砂が雨となってフィリピンに落ちるのを目撃した旧ソ連の飛行士ウラジミール・コバリョーノク氏は<そのとき、私たち地球人はみんな同じ船で旅しているのだと悟った>▼死を思わせる闇に、薄い大気をまとって青く輝く星が浮かぶ。その光景が、人類が運命をともにする家族であることを思わせ、地球を守る使命感を呼び起こすようだ。米ソが激しく対立した時代、宇宙には和解を感じさせる一面もあった▼現代の宇宙に、新たな火種をもたらすようにみえるのが、米トランプ政権の目指している宇宙軍の創設だ。中ロ両国の宇宙利用などに対抗するのが目的だという▼官僚組織の肥大化や出費の増大への批判が国内にはあって、実現性への疑問の声が上がっているそうだ。再選を目指す大統領選への選挙対策であるとも指摘されている▼国際協調に背を向けてきたトランプ大統領のこれまでのやり方の延長のようにもみえる。宇宙から見える国境のない星の姿は、大統領の念頭にはないのだろうか。