ひところの猛暑もやや落ち着き、都会のセミの声にツクツクボウシがよくまじるようになってきた▼その名は鳴き声の聞きなしからきているが、『日本語オノマトペ辞典』によると、平安期は「クツクツボウシ」で室町期に現在の「ツクツク」が主流になったという。「ウツクシヨシ」。漢字なら「美し良し」か。そんなきれいな聞きなしもかつてはあったそうだ▼子どものとき、「ツクツクオーシ」の声が聞こえると夏休みの宿題が心配になってきたという人もいるだろうが、この人はあまり焦っていないようだ。九月の自民党総裁選を控えた安倍首相である▼出馬表明の時期について「せみ時雨を聞きながら考えたい」と語っていたが、アブラゼミやミンミンゼミのせみ時雨のピークを過ぎてもなかなか表明しない。出馬を迷っているのならともかく、三選に向け、党内を着々と固めているのに、正式な表明はためらっている。不可解である▼作戦らしい。出馬表明してしまうと、石破さんとの事実上の論戦に突入するが、これを嫌がって表明を延ばしているとの見方がある。だとすれば、現総裁(首相)にしては、ずいぶんと気弱で「ウツクシヨシ」のふるまいではない▼事実上、日本のリーダーを決める戦いである。国民は論戦を通じて候補の主張と違いを見たかろうに。ツクツクボウシが「つくづく惜しい」と鳴いている。