<まだ青い素人義太夫玄人(くろ)がって赤い顔して黄な声を出し>-。蜀山人(しょくさんじん)(大田南畝(なんぽ))の狂歌と伝わる▼思い出すのは落語の「寝床」。旦那が下手な義太夫を長屋の店子(たなこ)や店の者にむりやり聞かせて、苦しめる▼「下手なだけならいいんだよ。あの声を聞くと患うからいけねえんだ」「この間なんか、耳の遠くなったおばあさんまで旦那の義太夫をまともに受けてひっくり返った。胸に大きなアザが残っている」。人体に悪影響を及ぼすとはすさまじき旦那の声の破壊力である▼そのニュースに、さては旦那の声は「マイクロ波」だったか、などとあまりふざけてもいられまい。二〇一六年以降、キューバ駐在の米外交官ら二十五人が聴覚障害などの不調を訴えていた問題。その原因は「マイクロ波」攻撃だったとの疑いが強まったと米紙が報じた。被害者は脳に損傷を受けた可能性があるという。事実なら深刻な話である▼電子レンジなどで使われる「マイクロ波」。かつて旧日本軍も「怪力線」として兵器利用を研究、断念したと聞くが、現代では数ブロック離れた距離から対象を狙って照射できるレベルまで開発が進んでいるのか▼見えない波でひそかに敵を…。こんなものを使い始めれば、世界は「マイクロ波」の応酬になりかねない。<赤い顔して黄な声を出し>。怒りでこっちの顔が赤くなり、恐怖で黄色の叫び声が出る。