かわらけ投げとは高いところから素焼きの小皿などを的に向かって投げる遊びで今でもできるところがあるだろう▼落語の「愛宕山」の中にお大尽の旦那がかわらけの代わりに小判を投げる場面がある。この旦那、遊びを極めたいのか「いっぺんやってみたかった」らしい。お供のタイコモチ、一八が「もったいないじゃありませんか」と必死で止めるのだが、旦那は耳を貸さぬ。「うるさい。おまえなんかにオレの気持ちが分かってたまるか」。三十両を投げ切る▼あのタイコモチなら、この大富豪の月旅行もやはり止めるのだろうか。米宇宙企業スペースXは月の周囲を飛行する有人飛行を日本の前沢友作さんと契約したと発表した▼出発は二〇二三年。着陸はしないが、実現すれば、月への有人飛行は一九七二年のアポロ飛行以来。スケールの大きな旅である▼「旅費」がいくらか明らかになっていないが、自分の夢を実現させるその財力と勇気にちょっとため息が出る。なにせそのロケット、まだ試験飛行にも至っていない。自分の会社の名を世界に広める宣伝効果も見込めるだろうが、大枚を払った上に覚悟もいる旅に出るとは恐れ入る▼今年の中秋の名月は二十四日。<月天心貧しき町を通りけり>蕪村。ひがまず、こちとらは家でながめるとしよう。優しいお月さまは懐具合のよくない者にも無料で姿を見せてくれる。