十八、十九世紀のドイツでは学生同士の決闘行為がよくあった。ルールがあり、命までは奪わないらしい。ハイネ、マルクス、ニーチェ、シーボルト。歴史上の人物たちも若き日の決闘の経験者と聞く▼大学時代の一年半で二十五回の決闘をしたのが鉄血宰相ビスマルク。顔に刀傷が残ったという。宰相時代も決闘を申し込んでいる。「ソーセージの決闘」(一八六五年)という。相手はビスマルクを批判する政治家ルドルフ・フィルヒョウである▼決闘は申し込まれた方が武器を選べる。科学者でもあった、フィルヒョウが選んだのは二本のソーセージ。一本には寄生虫が潜んでいる。「さあ一本選んで食べよ。残った方を私がいただく」。ビスマルクは結局選べず、決闘は行われなかったという▼この長引く決闘をどう収めるか。米中の貿易戦争である。トランプ米政権は先週、対中制裁関税の第三弾を発動し、これに対し中国も報復関税を実施した▼これで米国は中国からの輸入総額のほぼ半分、中国は米国からの七割に関税を課したことになる。お互いの首を絞め合う懲罰と報復の果てなき争い。もはや危険なレベルに入っている▼世界一位と二位の決闘にもやはりソーセージを出すか。そのソーセージは一本だけではなく、両方ともに世界経済の大打撃という猛毒が入っている。話し合いのテーブルにつくしかあるまい。