あまり見かけない「俥」という漢字は「くるま」と読んで人力車を意味する。右側に車があり、人偏はそれを引く人だ。なかなかうまくできた漢字で、辞典には「日本製」ともある。車夫がかじ棒を握って街を走る姿も、想像できる字だろう▼<もともと私は俥に乗るのが好きなので…>。作家の内田百〓(ひゃっけん)は、人力車を題材に、随筆を書いている。金策に駆けまわる時にも、乗ったというほど好きだった人だ。魅力はやはり人偏の部分にあるようで、随筆には顔なじみの老車夫らとの思い出が多く記されている▼では次世代の「車」の隣には、何偏がふさわしいだろう。技術にちなんで手偏か。自動の「自」か。右側にトヨタ自動車、左側にソフトバンク。両トップが並んだ写真に、そんなことを思う▼新しい自動車像が生まれようとしていて、生き残りの競争が始まる。自動車業界の危機感もいや応なく知らされるような驚きの組み合わせによる提携が発表された▼人工知能などの力で、運転が自動化された車が街を走る時代が迫っているのだという。車は端末としての性格を強め、所有形態も含めて、大きく変わる可能性があるそうだ▼百〓は、交通機関が発達しすぎると、人間は忙しくなりすぎて、<いつも何処(どこ)かへ行く行きがけか、その帰り>にならないかと心配した。企業の人にも、使う人にも優しい変革であることを願う。
※〓は、門構えの中に月