随分空気が澄んだと、夜、空を見れば、火星の輝きが弱々しくなっている。大接近していた夏の間ずっと、燃えるようだった。あの赤い光の記憶は異様な暑さとともにある。列島は災害に見舞われ通しだった。被災地の空に輝くのを思い出す方もおられようか▼火星はどんどん遠ざかる。次の大接近は二〇三五年九月になるという。古くは凶星とも言われた星らしいが、長い別れを思えば、名残惜しくもある▼早ければ二〇三〇年の話だというから、次の火星大接近より、前になるのかもしれない。平均気温が、産業革命の前よりも一・五度上がっている恐れがあるという地球の暑さである。国連の気候変動に関する政府間パネルが、特別報告書にまとめた▼それ以上上がれば、干ばつや豪雨、熱波などの気象災害、海面上昇は深刻化するという。事態の切迫を感じさせる内容の報告書だ▼温暖化対策のパリ協定が採択されたフランスでは、報告書の発表後、大統領が「すべての人が今行動を起こさなければならない」とメッセージを発している。過酷な暑さと異常気象の夏に、気温上昇の影響が、いよいよ迫ってきていると多くの人が、実感したであろうわが国にとっても、当然、重く響く報告書だろう▼あと十数年である。再び火星が明るく輝いているころまでに、われわれは、行動できているか。知恵を発揮できているだろうか。