映画監督の黒澤明さんの小学生時代のあだ名は、「こんぺと(金平糖(コンペイトー))」。<こんぺとさんはこまります いつも涙をポーロポロ>。当時そんな歌があったそうで黒澤少年はそう囃(はや)されていじめられていた▼ドッジボールでは集中的にぶつけられる。洋服は汚される。坊ちゃん刈りで、背広に半ズボンの黒澤少年の姿は他の子どもから、浮き上がり標的にされたそうだ。助けてくれたのは、四つ上のお兄さんだったそうだ。休み時間にいじめられているとどこからともなく現れて、救い出してくれる▼その悲しい数字にいじめに泣くすべての子どもにそのお兄さんがいてくれたらと詮ない空想をしてしまう。過去最多の四十一万件。全国の国公立私立の小中高校、特別支援学校が二〇一七年度に認知した、いじめの件数である▼四十一万件分の悲しみ、痛みとはどれほどか。まず、いじめられている子どもの分。大切な子へのいじめを知り、心配する親。黒澤さんのお兄さんのような兄弟、姉妹もいる。おじいちゃん、おばあちゃん…。親類やそれぞれの友人まで含めれば、途方もない数の悲しみになるだろう▼教室は閉ざされているので分かりにくい。が、泣いているのは、その子だけではない。その子につながる、たくさんの痛みを想像したい▼そして、いじめている君よ。その事実を知れば、君につながるたくさんの人も泣く。