俳優の高倉健さんが出演する映画作品を選ぶ判断基準について語っている。一つは「脚本の中身」。もう一つは出演料だそうだ。「僕はギャラの額を大切にします」と言う▼健さんが演じた人情あふれる人物たちを思えば、ドライにギャラとはやや意外。理由がある。いかに自分が必要とされているかが出演料で分かる。なにより「撮影前に多くのものを背負っていれば、自分を追い込むことにもなる。今日はつらいから撮影をやめるなんて絶対に言えなくなる」▼この状況なら健さんも「やめさせてもらいます」となるか。船出したばかりの官民ファンド「産業革新投資機構(JIC)」の取締役九人が一挙に辞任した問題である。辞任の理由は機構側と所轄官庁、経済産業省の間の報酬をめぐる対立だった▼最大で一億円を超える報酬水準を経産省側がいったん提示しておきながら高額すぎるとの批判を受けて撤回。これを取締役側が納得しなかった▼一般の金銭感覚からすればギョッとなる額である。とはいえ報酬を一方的に下げられたら、取締役たちが仕事への熱や経産省への信頼を失うことも分からぬでもない。最初に示した報酬水準も含め経産省側の手抜かりであろう▼ヒット間違いなしの触れ込みだった映画「JIC」。ギャラをめぐる俳優陣の降板で撮影再開のめどは立たぬ。制作費は国民。泣けてくる喜劇である。