漫画家の東海林さだおさんが魚のサバを激励するエッセーを書いている。煮付けて良し、焼いて良しのサバだが、大衆魚の中でも気の毒な立場なのだという▼同じ大衆魚でもサンマは佐藤春夫の詩「秋刀魚の歌」のおかげで格上扱いされる。イワシには「通や料理人に好まれるところがある」。ところがサバには売りがない。サバはサンマやイワシに「オレたち大衆同士だよな」と思っているのだが、当のサンマやイワシは「同じ大衆でもちょっと違う大衆なんだかんな」と見下しているというからひどい。しかたなくサバは定食屋さんや「缶詰界」という世界で生きていくことを決意した…。ショージ君独特の分析である▼サバが胸を張っている。その年の世相を象徴する料理や食品を選定する「今年の一皿」。二〇一八年はサバが選ばれた▼今年の漢字は「災」だったが、サバの受賞もこれと関係がある。災害が相次ぎ、防災意識の高まりによって今年、サバ缶の良さがあらためて注目されたそうだ▼必須脂肪酸を多く含み、健康効果も期待できるというサバ本来の実力も再評価され、今回の受賞となった。そういえばサバ缶が人気で品薄になる現象もあった▼実力はありながら、目立たなかった歌手が苦労を重ね、つかんだ栄冠。おごることも高級化の道も選ばず、いつまでも、大衆の食卓にあることを長年のファンは切に願う。

 

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